お笑いの賞レースはデータから結果を予測できるのか?

現代社会において、データというのは不可欠なものだ。

スポーツ、ビジネス、政治。過去の結果をまとめ数学的に処理したデータはこれから先のことを予測・対策するのに重要だ。

 

しかし、データをもってしても予測が困難なものも多くある。

その最たる例は、「お笑いの賞レース」なのではないだろうか。

当日のコンディション、出順、場の空気。数多くの環境が複雑に絡み合う。だからこそ毎年素晴らしい闘いを見せてくれる。

 

今回は、お笑いの賞レースにおけるデータ分析の限界に挑んでみたい。


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日本のお笑いにおける最大の賞レースといえば、「M-1グランプリ」だ。

芸歴15年以下の2人以上の組であれば(第10回大会までは芸歴10年以下)プロ・アマ問わず誰でも出場可能。一夜で人生が激変する……なんてことも多く、毎年多くの漫才師たちが夢の舞台へ挑む。

近年では、第15回大会(2019年)でファーストステージ史上最高得点を叩き出したミルクボーイの漫才が記憶に新しい。

 

第16回となる今回の大会は、いったい誰が栄光を手にするのか?

過去15回の激戦からデータを取り、それに基づき予想を立てていくことにする。

 

今回の検証の過程はこう。

①過去15回の大会を全て視聴し、隔年の上位3組について傾向を書き出す

②それらを元に今年の上位3組、優勝組を予想する

③当日、決勝を見て結果を見届ける

 

また、検証には対照的な予想も必要であることから、知人である電気とデニムさんにも「データを根拠としない」予想をしてもらった。

彼は大学時代お笑いサークルに所属し、M-1出場経験もある。

あの闘いを経験した側からの予想と、そうでない側のデータを根拠とした予想はどちらの方が当たるのか。そういった比較も取り入れていく。

 

まずは、出場コンビの傾向を見ていく。

今回決勝を戦う9組(敗者復活組を除く)は以下の通り。

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察しのいい方なら、この時点でいつもとは大きく異なっていることに気付くだろう。

比較として、前回大会の同様な図を用意した。

 

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前年は、東京吉本6組に大阪吉本が3組。吉本以外の事務所からの決勝進出は、サンミュージック所属のぺこぱのみに留まっている。これは、過去の大会全てにみられる傾向だ。

しかし、今回は東京吉本4組、大阪吉本2組。あとはグレープカンパニー、SMA(ソニー・ミュージックアーティスツ)、タイタンから各1組となっている。

吉本勢が圧されている、今までにない形となっていることがわかる。

 

また、マヂカルラブリー、アキナはいわゆる返り咲き(決勝経験者だが次回以降で予選落ちし、再び決勝の舞台に戻ってきた)コンビだ。

一度の大会に返り咲きコンビが複数出ることは2009年の第9回大会以来11年振りとなっている。

 

これまでとは出場者の傾向が異なる中で、例年のデータが役に立つのか。一抹の不安が過ぎったが、やるしかない。

 

続いては、歴代の最終決戦出場コンビの結成年と出場回数、ファーストステージでのネタ順を一覧にする。

 

 

出場回数は、初の決勝進出コンビがそのまま優勝する例が非常に多くなっている。逆に、麒麟や和牛、かまいたちなどのコンビは決勝進出回数は多いが優勝は果たせていない。

 

結成年数には途中で変更も含まれるためばらつきがあるが、結成5年以上といった組がほとんどだ。

 

そして、ファーストステージのネタ順は1番手〜3番手までのコンビと最後の10番目のコンビがほとんどいないことがわかる。これはよく言われる「前半は基準点作りや場の空気を温めるための存在になってしまうので不利」ということをよく表している。

 

各年の大会を見ていて、気づいたことがある。

それは、「風変わりなネタは評価されにくい」ということだ。

例を挙げると、2018年の「野田ミュージカル」を披露したマヂカルラブリーや、2019年に歌ネタで勝負したニューヨーク。両者はそれぞれ最下位に沈んだ上、審査員の1人(マヂカルラブリー上沼恵美子、ニューヨークは松本人志)に厳しい言葉を浴びせられている。

 

ここから私が導いた傾向は

・正統派漫才であること

・3組中少なくとも2組は吉本所属

・決勝出場回数は2回前後

という点。

 

これを踏まえ、今年のファイナリストの2回戦ネタや公式で公開されているネタを視聴し、最終決戦に残る3組を予想した。

 


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初出場かつ人の心を掴むネタをする、ということから東京ホテイソンを1位に据えた。

たけるさんの歌舞伎を取り入れた独特のツッコミが、審査員や視聴者の心を掴んで離さないことだろう。

 

2位は、3年連続決勝進出の見取り図。

緻密に作り込まれたネタには安定した面白さがあり、何度見ても見ている側の笑いを起こす。

西の劇場番長として活躍してもらいたいものだ。

 

3位には返り咲きコンビであるアキナを置いた。

今までネタを見たことは無かったのだが、過去の決勝と予選の映像を見て確信した。

この数年間で、格段に面白さが上がっている。その勢いに乗り、上位に食い込むだろうと予想した。

 

余談だが、私が今回出場するコンビの中で1番好きなのはニューヨークだ。

もちろん彼らを応援する気持ちはあるが、皮肉をこれでもかと詰め込んだ彼らのネタは評価されにくいかな……と思ってしまう。

 

 

 

そして、電気とデニムさんにしてもらった予想がこちら。



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以下は、電気とデニムさんから頂いた解説(原文まま掲載)。

 

予想の根拠は熱量と新規性。

当日、いかにお客さんを巻き込んで盛り上げたか…新しいシステムを取り込んでおり目新しさがあるか...この2つの基準が2015以降のM-1では重要と僕は考える。

 

それを踏まえた上で1位から簡単に解説させて頂きたい。

1位 錦鯉

錦鯉を1位としたのは、圧倒的熱量とお客さんを巻き込んで盛り上げる力の2点が傑出していると考えるからだ。

誰が見ても分かりやすく面白いネタの構成、まさのりさんのコミカルな表情や動き、これが会場にハマればそのままの勢いで優勝…そんな未来予想図がくっきり見える。

近年の賞レースではどぶろっく(2019キングオブコント優勝)、トレンディエンジェル(2015年M-1優勝)など熱量とお客さんを巻き込む力で優勝するケースも多い。最年長、大きな花を咲かせてほしい。

 

2位 東京ホテイソン

M-1で優勝・上位に進出するためには決勝初進出の方が有利だ。彼らは誰なのだろう、どんなネタをするのだろう、不確定要素が多いほうが面白いと分かった瞬間の心の掴まれ方が凄いのだ。そして間違いなく東京ホテイソンは心を掴むネタをたくさん持っている。

最初のボケまでの笑いのない時間をお客さんが待てるか、オチまでどんどん盛り上がる展開を東京ホテイソンが作っていけるかがカギになるだろう。

3位 オズワルド

ここまで優勝予想ということで自分の好き嫌いではなく勝つのは誰かを挙げた(もちろん錦鯉も東京ホテイソンも好き)。だがここで大きな声で言わせてほしい。

オズワルドが大好きだ!!畠中さんの淡々としたボケ、伊藤さんの切れ味鋭すぎるツッコミ…掛け合いの畳み掛けや熱量は他のコンビに劣るかもしれない。ただ4分の「間」を贅沢に使うコンビにそろそろ優勝してほしい。

 

「軽く解説もお願いします!」とお願いしたら各組に対する熱い想いを綴ってくれた。やはりあの舞台に立った戦士は闘いを見る側になっても熱意が違うのだろう。

 

2人の予想は東京ホテイソンが最終決戦に進むだろうという点だけが共通し、あとはそれぞれ異なる2組を挙げた。

勝敗は誰にもわからない。当日、決戦の舞台を見届けることしか私たちにはできないのだ。

 

…………

 

結果は、皆さんもよく知る通り。

マヂカルラブリーが優勝し、同率2位がおいでやすこが、見取り図。

全く予想できなかった。お互いが最終決戦に残ると予想した東京ホテイソンは、最下位となった。

今回は、最終決戦に進んだ3組全てが吉本所属。(マヂカルラブリー、おいでやすこがは東京吉本、見取り図は大阪吉本)

そして、史上初の過去大会で最下位に沈んだコンビの優勝。

マヂカルラブリー、おいでやすこががこのような成績を残したことから従来の「風変わりなネタが評価されにくい」という傾向も見られなかった。

 

「今まで評価されなかったネタ」としてマヂカルラブリーを挙げてしまった以上、申し訳なさを感じてしまう。

が、確かに彼らの漫才は非常に面白かった。いや、こんな偉そうに言う権利はない。腹抱えて笑わせてもらいました。

 

2020年の第16回大会は、従来の大会を大きく覆した大会と言っても過言ではないだろう。

予想が大きく外れてしまうのも仕方ない。

読めないからこそ、賞レースは面白いのだ。

 

 

しかし、私たちには忘れてはいけないことがある。

あの場にいた10組の漫才師は、優劣をつけてはいけないほどどこも面白いということだ。

そして、大会にエントリーした全5081組の漫才師達に感謝しなければいけない。

 

こんな暗い世の中に笑いを届けてくれてありがとう。

お笑いは、いつも人を明るくするのだ。

 

 

【結論】

賞レースは過去のデータを元にしても予想することは困難である。