雨上がりは普段の道をのろのろ歩く
その日、バケツをひっくり返したような酷い雨が降った。しかし昼過ぎにはすっかり止み、雨上がり特有のじめじめした空気に覆われていた。
普通なら、そんな日に外を長く歩こうとは思わないはずだ。それは私だって同じである。でも、その日は違った。
「なんか……散歩しながら帰ろうかな」
ねずみ色の空を見ながら、なぜかそんな気持ちになった。
宮城県道286号線沿い、鹿乃公園前のバス停。ここから長町駅までをゆっくり歩くことにした。普段の帰り道と同じルートでも、寄り道したりよく観察することで、新しい魅力が見えてくるはずだ。
歩道橋を渡り、細めの脇道に入る。ここでは1年を通じてよく露出魔が出るという。なんとしても出会いたくないものだ。
空気は重たく、頭が痛くなるような感じがする。しかし、私の気持ちはどんなものに出会えるかという期待でいっぱいになっていた。
昔を思わせる小さな美容室。こういう看板ってどうやって作っているんだろうかとあれこれ考えてみたが、全くわからなかった。
わかる方はぜひ教えてください。
街頭を見ると、「笹谷街道」と書かれている。由来はよく分からない。世の中、分からないこともたくさんある。
出た!田舎あるある、「メーカーが入り交じった自動販売機」。
ここはアサヒ飲料とポッカサッポロ、コカ・コーラが同じ自販機の中に並んでいる。
こういうゴタゴタとした雰囲気がたまらなく好きだ。よく見ると、商品サンプルがところどころ曲がっているのも愛嬌がある。
魚屋の外にケースに入ったホヤが売られていた。こういう売り方は産地ならではという感じがする。
しばらくホヤを食べていないなと気付いた時、口の中であの苦味や甘みが蘇った。
……気がしただけだ。
教会の入口にある謎のタイルアート。
「Jesus Loves Me(神は我を愛す)」と書かれた横にいるのは、どう見ても七輪と魚だ。
神は魚だったのか。つまり魚を食べる我々はゴッドイーターということか。
脇道を見つけた。こういう道に入らずにはいられないタチなので、すぐに進んでいく。
行き止まりだった。何が待っているかとワクワクした感情はしぼんでしまった。
私の期待を返してくれ。
笹谷街道も終わりに差し掛かったところで、気になる看板を見つけた。
蛸?蛸というと、八本足の?蛸を祀っているの?
気になってしまったものは確かめないと意味がない。早速看板の通り左折すると、本当にすぐにたどり着いた。
鳥居をくぐり、まずは舞台八幡神社に参拝する。
ライターとしてもっと実力をつけられますように、そして今年は考査で赤点を取りませんようにと願った。
願うというか、これらは自分の努力次第な気もするが気付かないふりをした。
そして、こちらが蛸薬師如来。鈴ではなく銅鑼のようなものがついている。
神様ではなく如来、つまり仏様を祀っているので参拝の時は合掌のみをするらしい。知らなかった。
神社を後にすると、目に飛び込んだのは変わった看板のコインランドリー。読みづらさもまた魅力だ。
そうこうしているうちに日も傾き始め、長町駅前までやってきた。
ここまでの小さな旅を振り返り、いつもの道でも周りをよく見てみれば新しい発見が多いものだなとしみじみ思っていたとき。
私は大きな過ちに気がついた。
朝差してきた傘がない。高校に置いてきたままここまで来てしまった。
スマホを見ると、時計は6時前。ただでさえいつもより遅い時間なのに、ここからまた戻るのか…………と思うと、一気に足が重くなる。
しかし、濡れた傘を週末置きっぱなしにするのも嫌である。
仕方ない、戻ろう。
それだって、きっと雨上がり散歩の醍醐味だ。
迎えを頼んでいた父に連絡を済ませ、発見だらけの道にまた歩みだした。